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平成25年(2013年)学長年頭の挨拶

掲載日:2013/01/04

年頭の挨拶

 明けましておめでとうございます。


 よいお正月をお迎えのことと存じます。国としても新たな政権の誕生により、新たな歩みが始められるわけですが、それが我々の本業とする研究・教育という世界に新たな希望をもたらすことを願ってやみません。


 昨年を振り返って、様々な試練が次々に強いられたような気持であるのは皆様にも同じ思いであるかと想像します。運営費交付金の削減、交付の延期、給与削減、退職金削減、労働契約法についての課題、いわゆる「仕分け」による影響など枚挙にいとまがありません。このままですと、大学は本来の機能はおろか、日本の大学の理念の存亡の危機とさえ思われる状況と思います。幸い本学は教職員の並々ならぬご努力によって、厳しい中にあって、大学の機能を発揮している稀な大学の一つではないかとさえ思っています。教職員のご努力なくして考えられないことであります。大学を運営するものの一人として、そのご努力にも限界のあることを認識し、対外的な活動を強めることによる環境改善を図るとともに、大学の改革、機能強化を図っていかねばならないことを痛切に感じています。


 本学にとって明るい話題もありました。大型の外部資金を獲得することに多くの先生方が挑戦していただき、本学の実力が広く認められる成果が得られていると思っています。


 博士課程教育リーディングプログラム、グローバル人材育成推進事業(スキップワイズ・プログラム)、ツイン型学生派遣プログラム(ツインクル)、臨床研究中核病院、熱エネルギー変換グリーンイノベーション技術実証のための拠点整備事業、などなど採択され実施されているところであります。しかし、施設のみならずシステム、運営を含めて、学内の研究環境の整備は必ずしも十分ではないと思っています。一層努力をして参りたいと思います。施設ではアカデミック・リンク・センターができたこと、総合学生支援センターが整ってきたこと、とくに「あかりんアワー」や「イングリッシュ・ハウス」など学生が気軽に交流できる環境ができたことは素晴らしいことであり、全国から見学者が来られていることからも先進的な取り組みが行われていることを示していると思います。


 国が大学に昨年求めてきた作業として"ミッションの再定義"というのがあります。要約するとそれぞれの専門領域で、大学が持つ領域の"今までを"しっかりとreviewし、そこから今大学があることの意味を考え、将来どのように進むかを述べることではないかと思っています。国が求めているのは、それぞれの大学の理念によって実行され、それが正しく評価され、その評価に値するようなこれからの進路を決めてほしいということではないかと思います。すなわち、単に大学のエゴとみなされることのないように、社会に受け入れられるようにすることが求められていると思います。大学と文部科学省とのミーティングは目下進行中で、今年中には今行われている学部に加え、他の学部などすべての領域で行われるということです。100年余の歴史を持つ大学が、その時代その時代に果たしてきた役割を振り返り、今この時代に、そして将来に何をせねばならないか、それは何のためにやるのか、それは国として必要なことであるのか、世界はそれを求めているのか、そしてそれを本当に本学がせねばならないことであるのか、などに答えることが求められていると思っています。これに正しく答えることなくして、大学のさらなる発展は保証されないかもしれないという危機感もあります。積極的に取り組んで参りたいと思っています。


 これらは大学の運命を規定するかもしれないというぐらいに重要なことで、教職員一丸となって取り組んでいきたいと思っています。すなわち、大学の舵をいかに取るかということです。すなわち基本的な考えとして、大学の各領域が持つ専門性を維持し、発展させるという基本とそれを支える研究と教育の環境を保証するということだと思います。


 このように国の方針で考えてきますと、大学に奉職する身として、考えさせられることもあります。大学とは本来、役に立つことだけをやるところでもなく、社会が理解しないようなことでも実行する自由があるところであり、その完成に何十年もかかることを保証していくことであり、教育という領域にあっては教師の個性に依存したものがあってしかるべきなどというのが大学の特徴ではなかったかとさえ思います。そのような大学の雰囲気の一部を味わったかもしれない私共の世代には一層そう思います。しかし学問も進歩し、学問の仕方も変化し、学ぶものの人口も増え、予算運営の仕方も変化したことなどを考えると、大学も変わらざるを得ないところがあるということも理解するところです。その中で大きな変化として感じますのは、大学のアウトカムとは何か、人材育成としてのアウトカムはどうなっているかという評価を国も、社会も求めてきます。それに答える義務が教師として、研究者として、ある領域の専門家として、あると思います。そしてそれは国を、社会を納得させることが求められているのだと思います。研究者、専門家、教職員として唯我独尊であっては許されないのだと思います。


 研究者として大切にしたいということについてのお考え、教師として大事にしたいこと、などそれぞれお持ちであると思います。そのことを否定する気持ちは毛頭ありません。しかし、今ある意味の改革が求められていると思います。それは個々人の改革であり、そこから構成される大学の改革であり、社会の改革につながるものであると思います。好きな言葉ではありませんが、改革には常に妥協はつきものであると思います。国、そして社会から求められているアウトカムに答えられるような計画であるということを示し、それを広く納得させるものでなければならないと思います。その中にそれぞれの専門家として大切にするものを秘める改革であってほしいと思います。そして、その計画を支える実力をしっかりと示すことであると思います。


 国はしきりと大学のいろいろな意味での序列化を目論んでいるように見えます。国としてある意味必要なことなのだろうと思います。ある意味では、その指標は別にしてある一定の基準を満たすことなくして、本来専門家が描いている大学の夢を維持していくことさえ困難な時代が来るかもしれないと思っています。積極的に改革に取り組み、自らも改革し、大学を改革し、そしてそれぞれが描く本来の大学をひそかに維持できる大学であり続けたいと思います。


 新年にあたり、自らの覚悟をお伝えして、この一年も健康に留意して、楽しい日々の中に、大学を発展させていけるようにお互いに努めて参りたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。

平成25年1月4日
国立大学法人千葉大学
学長 齋藤 康