卒業生の皆さんへ
掲載日:2013/03/22
本日ご卒業を迎えられました2,451名の皆さん、おめでとうございます。皆さんのご卒業を心からうれしく存じますとともに、皆さんのような優秀な人材を送り出すことができますことを誇りに思います。これまで皆さんを育ててこられたご家族を始め、関連する方々に心からお祝い申し上げますとともに、本日ご臨席賜りました方々に心から御礼申し上げます。
入学から今日まで喜びも、悲しみも、そして怒りも、皆さんとともにある時は共有し、ある時は反発しあって、時には皆さんに助けられ、時には皆さんを助けてきたことなど、皆さんとともに過ごすことができた日々を、教員として、職員として、全教職員がいつまでも誇りに思います。あなた方とともにこの大学で学んだ仲間として、いつでも助け合うことのできる仲間であり続けたいと思います。
皆さんはそれぞれの分野でいろいろな専門分野について学ばれ、多くの経験をして、たくさんの知識や技術やそして考え方などを得てきたと思います。それはそれぞれ皆さんの財産であるとともに大きな意味で人類としての財産でもあると思います。そしてその財産はあなた方個人にしても人類という基準においても、いろいろな意味で多くの人々に貢献できるものであって欲しいと思います。人類にとって科学の成果の進歩というものは、そのような考えのもとに進められてきたものと思います。では実際にどのような方法で貢献していくかということになると、人類はそのことについて本当にいろいろな手法を編み出してきたと思います。広くお互いに交流するということもそのひとつと思います。小さな村という単位での交流、もう少し大きい地方として、時には国として人と人との交流を通してそれぞれの持ついろいろな財産を共有するという作業をして、お互いに進歩してきたということがあると思います。そのような交流が成立するために最も大切なことは何でしょうか。
もちろんお互いにいろいろなルールがあるでしょう。もっと大切なことは多くの歴史的事実が教えているように、そこにはお互いの思いやりがあり、お互いを尊重する心があり、お互いに助け合い生き延びていこうとするいわば文化がなければならなかったであろうと想像します。このような交流は国境を超えて行われることが求められていると思います。
国あるいは地域を超えて人類が交流するという行為は何も現代に始まったことではなく、いろいろな遺跡やその当時使われたであろう生活用品の発掘などから、紀元前にも遠く離れた大陸から祖先が来ていることや、北方領域では船による交流のあったことなどが実証されています。その他にもこのような交流について多くの歴史的事実が示されています。彼らはなぜこのようなことをしたのかということにはいろいろあると思います。一つの想像を許していただき述べたいと思います。人類の知恵はそれぞれの地域で異なった発展を遂げているものであり、自らの地域の発展を願うとき、異文化への憧れがあり、それを得ようとしたのではないでしょうか。そして、このような異文化交流が、人類を大きく発展させたのではないでしょうか。これが現代流にいえば国際化ということであるのだと思います。
現代においても、それぞれの国はそれぞれの特徴的な文化を持ち、考え方を持ち、それによって、違った発展をとげているのだと思います。そのような異国への憧れは、まさに我々の祖先が行った異国へ向かうという思いではないでしょうか。まさに異文化交流そのもののような気がします。そのように考えると現代においてそのために、すなわちいわゆる国際化のために必要なことが何であるかを考えてみることは大切なことだと思います。
交流という内容には、経済競争という局面からの国際化ということもあるでしょう。それぞれの国が持つ優れた技術によって生まれた成果物を世界に広げるという国際化もあるでしょうし、逆に外国から受け入れるという国際化もあるでしょう。
国内で生産され、国内で消費するという循環から世界での循環を考えた経済が成り立つということでもあります。さらにいろいろな政治的な交流もあります。教育、研究についても同様です。このように考えると皆さんのこれからの活躍する場は、国内ばかりでなく世界であることを容易に理解出来ると思います。さて、そのような国際化を行っていくために必要な大切なことは何でしょうか。いろいろあると思いますが、それぞれの異なった発展をしてきた背景にあるその国の文化や社会システムや生活習慣などを理解することは重要な要素であると思います。現代はいろいろ通信手段を始め交通機関の発達により国境のない時代といわれますが、もし国境というべきものがあるとしたら、それぞれの国が発展してきた背景にある特異な文化やシステムなどであるかもしれません。そのようないわば国境を乗り越えるにはその文化を大切にする心を持ち、そして理解することが極めて大切であるといえましょう。国際的に交流していくためには、一つの障害として言葉の違いという問題が挙げられます。
皆さんは在学中にもいろいろな方法で外国語の習得に挑んだと思いますし、大学としてもいろいろ挑戦しています。言葉が重要であることはもちろんです。しかし、言葉そのものよりも言葉を発する人間の思いがいっそう大事であると思います。蜷川幸雄氏が演出された"トロイアの女"というギリシャ悲劇の舞台があります。日本でそして戦争のさなかにあるイスラエルで公演されました。舞台ではヘブライ語、アラビア語、日本語、その3つの言語がそのまま飛び交う中で進められ、一つの出来事へのリアクションも全く違う言語でそれぞれの思いを対峙していきます。しかし、それでも文化や歴史や政治的な形態や置かれている立場の違う人々が、相手を思いやるという演出がなされています。多くの人に感動を呼び起こしました。このようなその大切さを理解する市民の力が、この戦地での舞台を成功させたとも言われています。申し上げたいことは、皆さんの時代は世界とともに、世界を考えて、自らの力を発揮し、人類に貢献するという時代であり、そのために大切なこととしてどのような事情があろうとも相手の国の文化を理解することを忘れない人間でなければならないと思います。そして日本の文化を伝えられる人間であって欲しいと思います。そして日本人として世界に飛躍して活躍して欲しいと思います。
今日、こうしてご卒業を迎えられるには、皆さんのご努力はもちろんですが、皆さんの周りの方々のお力添え、ご指導のあったことに感謝の気持ちを忘れずに、素直に表現していただきたいと思います。そしてその気持ちを広く社会に還元していくことを忘れないでいただきたいと思います。
以上を持ちまして、皆さんの卒業に際してのお祝いの言葉といたします。
平成25年3月22日
千葉大学長 齋藤 康