粘膜面の免疫システム研究によりアレルギーやガンの予防ワクチンなど新規治療法を開発(中山俊憲教授)
~国際粘膜免疫・アレルギー治療学研究拠点形成事業~

中山俊憲
Nakayama Toshinori
千葉大学大学院医学研究院教授
山口大学医学部卒業、東京大学大学院医学系研究科修了。2001年に千葉大学に着任、2004年より現職。2014年より千葉大学副学長(未来医療)、未来医療教育研究機構 機構長。2015年より千葉大学医学研究院長、医学部長。亥鼻キャンパスの研究環境整備、博士課程人材育成(リーディングプログラムコーディネータ等)を担当。専門は免疫学。記憶ヘルパーT細胞の中に病原性のある細胞が出現し、難治性アレルギーや自己免疫疾患が発症するという説を提唱。発症の原因となる細胞を除くことで難治性の炎症疾患が治療できることが期待されている。

「病気にかからない予防ワクチン」の開発
現在流行しているMERS・エボラ・新型インフルエンザ・エイズ・結核などの新興・再興感染症のほとんどは、口や胃などの粘膜面から侵入します。現在のワクチンではこうした新興・再興感染症の侵入を完全に食い止めることができず、有効な治療とは言えません。
また、先進国を中心に深刻な問題となっているぜん息・花粉症・食物アレルギーといったアレルギーも実は口・胃・生殖器などの粘膜組織で主に発症しているため、粘膜面の免疫システムを理解・コントロールしてこれらの疾患を予防・治療しようという研究が現在注目されています。
そこで本プロジェクトでは、粘膜免疫の理論・技術をもとに、感染症・アレルギー・ガン等の新規予防・治療法を開発研究する学術分野である「粘膜免疫・アレルギー治療学」を新たに作ることを目的としました。
現在の注射型ワクチンでは重症化を押しとどめるだけで、体を感染から十分に守ることはできません。ですが、本プロジェクトが開発を試みるワクチンは、病原体の入口である粘膜において免疫力を上げ、病原体の感染そのものを止めることができます。つまり、「病気にかからない予防ワクチン」といった次世代型のワクチンが誕生する可能性があるのです。
その他、「注射器不要・冷蔵不要の米型ワクチン」や「花粉症の根治ワクチン」などの全く新しい治療法の開発を目ざします。
この研究により、これからの超高齢化社会において健康に長生きするためだけでなく、公衆衛生を大幅に改善するためのワクチン開発における新コンセプトや技術を世界に向けて発信し、世界の健康増進と生活の質の向上に貢献できることが期待されます。

世界的に類を見ない研究体制
事業化や製品化の可能性のある技術や発明をシーズ(種)と言いますが、このシーズを新たな治療法として社会に還元するため、異分野の研究室と共同研究や、産学連携を強化することで、新治療法として実用化可能なシーズの開発を目ざします。
またグローバルな人材育成のため、千葉大学を中心とした国際研究ネットワークを形成する予定です。
現在、粘膜における免疫機構(粘膜免疫)に注目して様々な疾患に対する治療法の開発のために、シーズを新たに作り出す基盤研究の促進と臨床への応用、そしてグローバルな人材の育成を行う体制は、世界的にもありません。このような中、免疫学・アレルギー治療学において長い伝統を持つ千葉大学が世界屈指の研究施設と足並みをそろえ、粘膜免疫を基盤とした治療法の開発を戦略的に行うことは、国際社会の中でも新たな試みといえます。

学生、若手研究者の皆さんへ
グローバルスタンダードの「治療学」研究の現場で、感染症・アレルギー・癌等の新規予防・治療法を開発して世界に貢献したいと思う、向上心のある学生・若手研究者の皆さんへ。私たちと新しい一歩を踏み出しましょう。
慢性炎症肺においては気道、血管周囲にリンパ球の集積(誘導性気管支関連リンパ組織)が認められる。T細胞(緑)、B細胞(赤)、細胞核(青)
未感作のマウスの脾臓においてT細胞(青)とB細胞(赤)はそれぞれ濾胞とT細胞領域に分かれて局在している。
腸管
腸管樹状細胞