研究・産学連携
Research

植物分子科学





ゲノムや環境で決まる植物化学成分「ファイトケミカル」の解明が豊かな生活を実現(齊藤和季教授)
~ファイトケミカル植物分子科学~

齊藤和季

Saito Kazuki

千葉大学大学院薬学研究院教授

1977年東京大学薬学部卒、1982年薬学博士。慶應義塾大学医学部、ベルギー・ゲント大学を経て、1995年より現職。2005年理化学研究所植物科学研究センター、グループディレクター、2010年副センター長、2013年環境資源科学研究センター、副センター長、グループディレクターを兼務。平成22年文部科学大臣表彰科学技術賞(研究部門)、平成23年日本植物細胞分子生物学会 学術賞、平成26年度日本生薬学会賞、平成28年日本植物生理学会賞などを受賞。論文の被引用度調査から、トムソン社のHighly Cited Researchers 2014および2015、米国植物生物学会のASPB TOP AUTHORSなどに選定される。植物ゲノム機能科学、植物成分の生合成と代謝、バイオテクノロジー、生薬学などを専門とする。

植物の生存戦略が生んだ「ファイトケミカル」

植物が作る多様な化学成分(ファイトケミカル)は、薬や食品、燃料、工業原料などに使われ、我々人間の生命を支えています。このように私たちは、植物の恩恵を受けて生きていますが、植物側から見ると人間に恩恵を与えようとしているわけではありません。植物は、「動かない」という生存戦略を進化の過程で発達させ、その過程で極めて多様な化学成分を作るようになったのです。
本来、植物化学成分は、外敵に対する植物の防御や繁殖などのために作られた物質ですので、様々な化学構造を持ち特異な生物活性を有しています。これを植物の代謝的な表現型(フェノタイプ(P)またはメタボロタイプ)と言います。この代謝表現型は、植物が持つ遺伝子の総体であるゲノム(G)と、環境に応じた分子応答(E)によって決められます。従って、ファイトケミカルに関するこれらの3つの 重要な要素は、次のような単純な関係式で表されます。

表現型(P) = ゲノム(G) × 環境(E)

ファイトケミカルを作る基盤を解明し、生活を豊かにする研究

私たちの研究プロジェクトは、この植物化学成分に関する分子科学的な原理を明らかにする事を大きな目的にしています。まず、第一にこのように多様なファイトケミカルは、どのように植物ゲノムの機能によって作られ、その植物ゲノムはどのように多様性と普遍性を有しているのかを解明します。第二に、これらのファイトケミカルはどのような化学構造を有し、どのような生物機能を発現するのかを明らかにします。第三には、これらのゲノム遺伝子の発現やファイトケミカルの生産は、どのように環境に応答して変化するかを解明します。さらに、そこで得られた成果を、最終的には植物成分による新しい医薬品や試薬の開発、健康機能食品の開発、化粧品・香料・燃料などの工業原料に応用して、私たちの生活を豊かにする事が目的です。

学生、若手研究者の皆さんへ

私たちの研究プロジェクトは、亥鼻キャンパスにある薬学部、真菌医学研究センター、松戸キャンパスの園芸学部、柏の葉キャンパスの環境健康フィールド科学センターにまたがる10研究グループから構成されています。その他、日本を代表する最先端研究機関である理化学研究所やかずさDNA研究所も連携しています。研究グループは論文被引用度という客観的な指標で世界的に非常に高い評価を受けており、世界のファイトケミカル植物分子科学をリードしています。
多くの学部学生、大学院生、ポスドクなどの若手研究者が参加して、日夜、最先端の植物分子科学研究に従事し、それを楽しんでいます。このチャレンジングな研究に、高校生、大学生、若手研究者など、次世代を担う若者が挑戦して、新しい道を切り拓いて欲しいと思います。お待ちしています。

関連ウェブサイトへのリンクURL

千葉大学戦略的重点研究強化プログラム ファイトケミカル植物分子科学
http://www.p.chiba-u.jp/phytochemical/

千葉大学大学院 薬学研究院 遺伝子資源応用研究室
http://www.p.chiba-u.jp/lab/idenshi/index.html
http://www.p.chiba-u.jp/lab/idenshi/index-e.html

理化学研究所 環境資源科学研究センター 統合メタボロミクス研究グループ
http://metabolomics.riken.jp/
http://metabolomics.riken.jp/English/index.html

その他
https://youtu.be/vKqCDxFaTHA
http://web-wac.co.jp/program/galileo_x/gx130224-2
http://www.nhk.or.jp/zero/contents/dsp253.html
http://web-wac.co.jp/program/galileo_x/gx130224-2
http://www.yomiuri.co.jp/teen/special/20160707-OYT8T50087.html

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