超音波やMRIなどを組み合わせてがんの早期診断や低侵襲治療を可能にする医工学(羽石秀昭教授)
~マルチモーダル計測医工学~

羽石秀昭
Haneishi Hideaki
千葉大学フロンティア医工学センター センター長・教授
栃木県出身。1985年電気通信大学卒。1987年、1990年に東京工業大学大学院修士課程、博士課程を修了。工学博士。1990年に千葉大学工学部情報工学科に助手として着任。2007年より現職。2017年4月より、フロンティア医工学センター長。1995~1996年アリゾナ大学放射線科客員研究員、2001年~2006年ナチュラルビジョンプロジェクトサブリーダー(文部科学大臣表彰科学技術賞を共同受賞)。医用画像処理、カラー画像処理の研究に従事。日本医用画像工学会副会長、第35回日本医用画像工学会大会長(2016年)。日本学術振興会平成29年度研究拠点形成事業 (A.先端拠点形成型)「マルチモーダル計測医工学の国際拠点形成」コーディネータ(2017年~2021年)

医学と工学の融合によって体を切らない診断を可能にする「マルチモーダル計測医工学」
CTやMRI、超音波などの診断装置をモダリティと呼びます。我々の研究プロジェクト「マルチモーダル計測医工学」では、これら様々なモダリティを使い、さまざま病気によって引き起こされる体内の変化について、細胞サイズから臓器のサイズでどこに何が起きているのかを工学技術で解明し、それらの関係性も明確化していきます。これらの知見を利用して、最終的に高精度で低侵襲な診断・治療を実現することを目指しています。
この研究は、診断・治療の高精度化・低侵襲化に寄与します。一例として、乳がんを対象にした非観血無侵襲の超迅速リンパ節生検システムの開発を行っています。通常は乳がんの転移判定のためにリンパ節を摘出して病理診断を行いますが、侵襲性の高い診断となります。これに対し、リンパ節内の細胞の特性を高周波数の超音波で検出することで、体を切らずに病理診断を行うことができる可能性があります。これが実現すれば、患者にとって負担が少ない医療が実現できます。

工学と医学が連携できる環境と充実した実験施設を完備
今後は、固形がんなどいくつかの具体的な疾患を対象に、超音波、MRI、光、放射線などを用いて生体組織の物性・構造・機能を計測し、それらを横断的・階層的に解析することで、生体に対する理解や疾患の診断能向上を目指します。計測装置自体や信号処理・画像処理手法も新規なものを開発します。当面10個のサブテーマを進めていきます。それぞれのサブテーマの成果は、適切なタイミングでプロジェクトのホームページなどにアップしていきます。個々のサブテーマの魅力は、プロジェクトのホームページの中で説明していきましょう。
研究体制として、シーズ研究(アイディア段階、基礎的技術)から前臨床・臨床試験までを工学系教員と医学系教員が緊密に連携して実施できる環境と、研究用途に利用できる実験施設が充実している点は、他に類を見ない大きなアドバンテージと考えています。
このプロジェクトでは、実際に世の中に新しい医学的知見とともに、新しい診断・治療技術を送り出すことを目指しています。医療に貢献する仕方は様々です。私たちは、工学を基盤として、実際に医療に貢献するものを世に出す意気込みで研究を行っています。

学生、若手研究者の皆さんへ
このプロジェクトでは、研究活動を通して人材育成にも力を入れています。研究室間の連携を重視し、医学と工学の両方の教員からの指導やアドバイスを受けることができます。また産学連携も活発に行っていることから、企業との共同研究も盛んであり、それらを通して実践力も鍛えられます。
プロジェクトではまた、グローバルに活躍できる人材の育成を目指して、海外の教育・研究機関に大学院生を長期・短期で派遣を行っています。これまでの実績として、アメリカではハーバード大学、コロンビア大学、ヨーロッパでは東フィンランド大学、ベルン大学、パリ6大学、アジアではタマサート大学(タイ)などに派遣を行っています(半年、2ヶ月、1ヶ月、10日間など)。
ぜひ意欲のあるみなさんの参加をお待ちしています。

関連ウェブサイトへのリンクURL
超音波の成果
体から摘出したリンパ節について、「その場ですぐに」がんの転移を超音波で「三次元で」判定した結果。右の、「数日後」に病理検査で判定できる「二次元」の結果と遜色ない診断精度が得られている。
赤:がん転移検出部
緑:がん転移非検出部
超音波生体音響特性解析システム
数KHzから数GHzまでのさまざまな周波数の超音波を使用して体内の生体組織から培養細胞までの音響特性を解析することができる
微小循環イメージング
試作した撮影デバイスで舌下の微小循環を可視化している。赤血球の流れが見える。カラーのLEDを使い、酸素飽和度の画像化にも取り組んでいる。
国際共同研究
脳腫瘍外科手術の光学的支援技術に関する、東フィンランド大学との共同研究。大学院生が半年間留学。
マルチモーダル計測医工学の概要と方向性
異なるモダリティの組合せ、あるいは異なるスケール間の信号を利用して、対象の生体特性を把握し、疾患の機序を理解し、従来の診断法(さらには治療法も)を大きく変える技術を研究する。
フロンティア医工学センターが有する研究用X線CTおよびMRI装置