令和2年度千葉大学大学院入学によせて(学長メッセージ)

千葉大学大学院に入学された皆さん、おめでとうございます。向学心、研究心にあふれる皆さんを国内のみならず、世界各国から迎えられたことを誇りに思っています。教職員を代表して皆さんにお祝いを申し上げます。

始めに、皆さんが楽しみにしていた入学式を中止したことを深くお詫びいたします。新型コロナウイルスの感染が日本はもとより世界中に拡大している情勢を鑑みて、新入生の皆さんやご出席いただく保護者等の皆様の健康を最優先させました。入学式が皆さんの人生の節目の式典であることを思うと大変残念ですが、ご理解いただきたくお願い申し上げます。そして、本来なら入学式で行う学長告辞を、本書状に代えさせていただきます。

今日の世界は、航空や海運の航路増大や情報通信技術の発達により、あらゆる方面でグローバル化が急速に進展してきています。一方で、地球規模の環境汚染ばかりでなく新型コロナウイルスなどの新興感染症への対策なども大きな課題となっています。国内では、少子高齢化が進み労働人口の減少や高齢化による医療面での課題が大きくなっています。また、地震や台風などの災害への備えなども喫緊の課題となっています。我が国が世界と共に持続的に発展するためには、それぞれの課題に関するイノベーション創成とそれを担うグローバル人材の育成が急務となっています。

千葉大学では、このような社会の課題に対応できる能力を備えたグローバル人材 の育成を目指しています。特に大学院では、課題対応能力を備えたグローバル人材の中でも広い視野に立ってリーダーシップを発揮できるグローバル・リーダーの育成を目指しています。そして、すでに一部の専門分野ではリーディング大学院や卓越大学院などの博士課程教育プログラムを開講しています。ですから皆さんは本大学院で、これまで皆さんが受けてきた高等教育の集大成として、学部での経験と実績を基に学術の理論及び応用を研究し、高度の研究能力や専門学識を深め、グローバル・リーダーとして専門性の高い職業を担うための卓越した能力を培っていただきたいと思います。

さらに本大学院で、グローバル・リーダーに必要とされる知性と教養を磨き高めていただきたいと思います。物事の本質を知り創造的に考える能力である知性は、大学院における研究活動の過程で磨かれます。研究課題の解明に向けて全力を傾けて探究を続ける中から、ご自身の知性を磨いてください。また教養を高めるということは、様々な経験を通して知識を増やすことだけでなく、豊富な知識に基づいて柔軟な思考や多様性に富む発想が出来るようになることです。そのためには、異文化の環境で様々な経験をすることをお勧めします。千葉大学はENGINEプランに沿って多様な留学プログラムを準備していますので、皆さんの目的にあった留学プログラムを利用して海外での活動を通して教養を高めるようにしてください。

私も今から約40年前に、皆さんと同じように本学の大学院に進学しました。そこで免疫機能の解明に向けた研究を行っている過程で、メンターの勧めにより在学中に米国に留学しました。初めての海外留学でしたが、多くの研究成果を挙げるとともに、生涯を賭ける研究テーマに出会うことになりました。帰国後は本学の教員として免疫研究を継続しつつ新たな研究展開を模索する中から、主任教授の勧めによりドイツに二度目の留学をしました。そこで当時開発途上の胚工学技術に出会い、その技術を取り入れた免疫研究を30年以上にわたり継続してきました。このような私の留学経験から後輩の皆さんに伝えておきたいことを二つ選んで記載いたします。

一つ目は、人格の修養に励んでいただきたいことです。私は、これまで巡り合った多くの研究者との交流から「人格的に優れた研究者のみが優れた研究成果を出し続けることが出来る」と確信するようになりました。そして人格の修養には、優れた人物から直接的な指導を受けることが最良の方法であると気づきました。私の場合は、大学院時代のメンターや留学先の指導教授から人生の師としての貴重な指導を受けました。皆さんも大学院における研究活動を通して人生の師となる方を積極的に探し求めて、直接指導を受けるようにしてください。素晴らしい指導者から受ける薫陶は、皆さんの人格形成に大きな影響を与えることとなり、皆さんの人生における宝物となるでしょう。

二つ目は、絶えず異分野の科学技術に注意を払うことです。私の場合は、二度目の留学先で胚工学技術という最先端の科学技術と偶然出会い、その技術をいち早く免疫研究に取り入れたことにより、一つの研究テーマを30年の長きにわたり追求し続けることが出来ました。この最新の科学技術を取り入れようと心掛ける点は、皆さんが将来社会で仕事する時にも必要となるでしょう。私が現在最も注目しているのは、人工知能・AIに関する技術です。皆さんがこれから始められる研究分野においても、進化したAIを取り入れた新たな研究展開が必要となることでしょう。千葉大学では、すでに治療学AI研究センターを設置して、皆さんの要望に応えられるようにしています。

皆さんには、これから学術の理論、高度の専門学識を究めていただき、将来は研究者や実務家としてグローバル化社会の第一線でリーダーとして活躍されることを願っています。そのためには、本学の理念である「つねに、より高きものをめざして」、真摯な探究心、研究心を持ち続け、研究活動を通して知性を磨き、豊かな教養を身に付ける努力を続けるとともに、ご自身の人格の修養にも努めてください。皆さんのこれからの大学院生活が実り多きものとなり、人間的にも大きく成長されることを心から願っています。そして千葉大学は、皆さんの精神的成長に向けて最大限の支援をすることをお約束いたします。

千葉大学大学院へのご入学、おめでとうございます。

令和2年4月吉日
千葉大学長 徳久 剛史