令和5年度千葉大学入学式 来賓祝辞
新入生の皆さん、ご入学、誠におめでとうございます。
3年以上も続くコロナ禍で思うように学業を修めることが大変厳しい状況の中で、志を貫き通し、最難関の一つである千葉大学の入学試験に合格され、本日晴れて入学式を迎えられた新入生の皆さん、そして、新入生の皆さんを支えて来られたご家族の方々に、心よりのお祝いを申し上げます。
千葉大学は、中山俊憲学長を筆頭に、教員の方々、事務職員の方々が、一丸となって、各分野でリーダーとして活躍できる人材の育成や、グローバル教育の充実等に積極果敢に取り組んでおられ、また、研究分野でも多大の成果を上げておられます。このような素晴らしい教育環境に恵まれた千葉大学に入学された新入生の皆さんは、本当に幸運であると心から思います。
今、世界はコロナ禍からようやく脱しようとしていますが、ウクライナでは、ロシアの侵攻による戦争状態が一年以上続いています。情勢は益々凄惨な様相を呈し、今後の世界の行方にも暗い影を落としています。
「我々は先の見えないVUCA(ブーカ)の時代を生きている」という表現をよく耳にします。VUCA(ブーカ)とは、変動性、不確実性、複雑性、曖昧性という意味の英単語の頭文字を並べた造語です。VUCA(ブーカ)という言葉を作った人達の想像を遥かに超えて、今、世界はより不確実で混沌としたものになっています。そして、今後もこのような状況が続くと覚悟しなければならないと思います。
こうした状況が続く中で、世界は大きく変化し続け、AIなどの技術革新と相まって、変化する速度はこれから更に速まって行くものと思います。前例主義の対応では、こうした変化に対応できません。これからは、「敷かれたレールの上を進む」、「与えられた既成の羅針盤を持って進む」ということは益々難しくなると思います。
不確実な混沌とした時代に生きるということは、多くの困難に直面するということですが、反面、より多様性のある、ダイナミックで挑戦し甲斐のある世界、社会を生きるということでもあります。予想もできない、新しい事態に対応する力、そして、新たな可能性を切り拓くイノベーションの力を試される世界を生きるということです。
そうした世界の中で前に進んで行くためには、物事の本質を見抜き正しく決断できる叡智、物事に動ぜず怯まずやり抜く胆力、そして、転んでも失敗しても立ち上がり挑戦し続ける粘り強さ、英語でいうresilienceがこれまで以上に必要だと思います。
これからは、そうした力を身につけ、自分自身をより強くより豊かにする必要があります。千葉大学に在学しておられる間に、是非、そのためのヒントを色々と学び、これからの時代を生き抜く力を得られるように自らを鍛えて頂きたいと思っています。
私は、今から50年前に大学を卒業し、外務省に入省して41年間外交関係の仕事に携わりました。外務省退官後も、外務省時代とは違った側面から、諸外国との関係強化、交流促進の仕事に携わって来ています。
こうした仕事に携わって来た中で、自分自身が物事を進める上で大事だと思うことは、相手や周囲の人に「信頼される」ことです。「信頼される」とは、文字通り「信じられ、頼られる」ということです。「知ってもらう」、「解ってもらう」だけでは足りません。「信じられ、頼られる」必要があります。信頼されるためには、常に相手に対して、また自分に対しても誠実であることが重要であると思います。
不確実、混沌とした状況が続く中で、厳しい課題に向き合い前に進むためには、一人では乗り越えられません。お互いに信頼できる多様な仲間を出来るだけ沢山つくり、その仲間達と力を合わせ、降りかかる厳しい課題に取り組むことが重要になると思います。千葉大学在学中にそうした「仲間」を是非沢山つくってください。
平安時代初期の僧侶、最澄の言葉に「一隅を照らす これ即ち国の宝なり」という言葉があります。この言葉を借りて、私なりの表現をさせて頂くと次の通りです。
「表舞台でも、裏舞台でも、どんな所でも、どんな分野でも、どんなことでも、ひたむきに、誠実に、たとえ小さい灯火であっても、精一杯輝き、周りの人を、少しでも多くの人を照らすことが出来る人が尊い人である。」
また、Apple創業者のスティーブ・ジョブズは、かつてスピーチの中で、「将来をあらかじめ見据えて、点と点を繋ぎ合わせることはできない。できることは、後から繋ぎ合わせることだけである。今やっていることが、いずれ人生の何処かで繋がって実を結ぶだろうと信じることしか私たちにはできない。」と言っています。
皆さんは、これから多種多様な経験をされると思います。全ての経験が楽しいものではなく、ある時は苦しむことがあるかも知れません。しかし、精一杯ひた向きに取り組んだ経験であれば、そのひとつひとつがいずれ人生の何処かで繋がり実を結ぶことになる。そのことを信じて、前に進んで頂きたいと願っています。
本日、千葉大学に入学を果たされた皆さん、千葉大学で学べるという「幸運」をしっかりと握りしめ、研鑽を積まれ、これから、色々な分野で、どんな所にあっても、どんな状況にあっても、失敗を恐れず、新しいことに挑戦して、精一杯光り輝き、前に進んで行ってください。
本日は、誠におめでとうございました。
令和5年4月5日
千葉大学経営協議会委員 塩尻 孝二郎