平成31年度千葉大学入学式 来賓祝辞

2019年04月10日

大学からのお知らせ

皆様こんにちは。 只今ご紹介を頂きました香藤です。
本日入学されました学生の皆様、また学生のご両親及び関係者の皆様にも重ねてお祝いもうしあげます。
皆様はここまで比較的順調に高校生活を過ごされ、本日の喜びを迎えられたことと思います。 今日は一日大いに楽しみ、これからの新しい生活に備えていただきたいと思います。
これから皆様が大学生活またその先、社会人として自主的な生活をされてゆく道の先には、 今までに経験したことのない多くのチャレンジと喜びが待っているものと思います。
そこで、私からの祝辞として二つのポイントに絞ってお話をしたいと思います。
その一つ目は、'運命に抗うことはできないが、運命をできるだけ上手く操ることは可能だ'
その二つ目は、'自分自身のよって立つ軸、原理原則を持つことは成長の力となる '
ということです。
そんなことは聞くまでもないと思われる方は、どうぞごゆっくりお休みください。
本日は成績の対象にはなっていませんし、照明も程よく暗く、久しぶりの安眠ができるものと思います。

さて、第一のポイントについてお話をします。
私にも皆様と同じ青春時代があり、大学時代がありました。
私の時代の大学生活は大学紛争の真最中であり、大学の講義にでた記憶はほとんどありません。
そもそも入学式は中止、卒業式さえも無かった時代です。
田舎から東京に出てきて親からのサポートを受けながら、大学ではほとんど授業を受けられない後ろめたさの中、日々を過ごしていたものでした。
しかし人間の気持ちとは面白いもので、出来ない手に入らない程それを手に入れたいと思うものです。
長期の学校閉鎖は、それまで勉強はいや、入試は苦痛以外の何物でもないと思っていた自分自身を結果的には変えるきっかけとなり、自ら学ぶ喜びを知る契機となったのです。
いやむしろ、与えられるものがないときは、自ら目標を持ち自分自身を律しないと時間に流され、無為な人生を送ってしまう一種の恐怖心を持ったといってもいいかもしれません。この大学時代の経験は、後年社会人となった時にとても役に立つことになりました。
この経験を言葉で表現すると、人生仕事は順調に困難に直面するときは順調だと思へと言うことです。困難、トラブルは失敗ではなく、目的地への通過点だと思えば勇気も出てきてこれまた楽しです。
もう一つは、目標を持ちしつかり計画を立てろと言うことです。計画はほとんど思い通りには進みません。しかし、計画を持つことは状況が変化したときに臨機応変に対応する力をあたえ、人をさらに強くし困難を克服する知恵を生み出す源となる。
これが、私が運命と付き合う信条として抱いているものです。
皆様も自分で自分なりの信条を見出し、運命と仲良く付き合い、明るい未来を切り開いていってください。
第二のポイントは、原理原則は思考の枠ではなく、発展の基礎になるということです。
私は就職後約6か月研修社員として訓練を受けましたが、その時のことは何も身につくことはなかったと思います。その時は、半分以上はいまだ学生気質でお客様のような気分であり、社会人としての自覚はほぼなかったと思います。しかし愉快で楽しい毎日でした。
何せ責任はなく、当時としては高い給料をもらい、残業も一切なかった時期です。
その気持ちが一日にして吹っ飛んだのが、研修後配属された職場の上司の一言でした。
ある日、取引先とのゴルフの約束があったのですが、 ゴルフは所詮遊びだろうと思い不覚にもその日寝坊をして遅刻をしてしまいました。
当然上司から叱責されるものと思っていたところ、その上司は'香藤、仕事に遅れるのは構わないがゴルフだけは遅れるな!なぜなら、仕事は君の代りに私ができるが、ゴルフは君の代わりには打てない 'とやんわりと諭された時です。
私は、恥ずかしさと自責の念から社会人としての責任を思い知らされ、その時こそ学生を卒業した時だといまも鮮明に覚えています。
まさに私の学生からの卒業式はゴルフ場だったと思います。
これ以降、私は自分自身の考えのベースは何であるかということを考えるようになりました。
その後、34歳の時 (1984年)にロイヤルダッチシェルシンガポールに転勤になりましたが、そこで体験し目にしたものは、日本での常識を全く覆すものでした。
その第ーは、残業はほとんどなく、午後5時には全社員退社し、家族とイブニングタイムを楽しんでいたことです。今で言うワークライフバランスが当然のごとく実践されていたということです。
第二は、社内の机の上には紙の書類は皆無であり、すべてがデジタル化されていたことです。効率的なファイリングシステムにより、オフィス生産性は極めて高かったことです。
今一度リマインドしますが、今から35年前の話です。
第三は、社員は全員当然のごとく二か国語を話し、世界のマーケットに対応していたことです。いわゆるグローバル対応が出来ていたことです。
第四は、職制はあるものの、コミニケションは極めて自由であり、積極的に自分の考えの発信を求められること。それは社員の国籍は16か国以上であったことにも起因しますが、ダイバーシティーは当たり前のことでした。
第五は、自分が初めて日本人であることを強く意識し、日本のことをよく知らなかったことを思い知らされたことです。この時ほど自分の教養の無さを恥じたことはありませんでした。個人のグローバル対応は、自分自身の文化を知り価値観を説明できることから始まる、と痛感したことです。
第六は、女性の自立心は強く、女性管理職比率は高く、社会進出が日本よりはるかに進んでいたこと。今でいうジェンダーの平等です。
シンガポールは1965年に独立していますので、私が勤務していた1984年ごろは、独立して20年ごろの時期です。
その時の国民の人口は約250万人でした。この様に小さな国が、建国僅か20年余りで Work-life balance/ productivity improvement/ diversification/ global-mindset/ gender equality を当たり前のごとく実践していた訳です。
これらは、いままさに日本が取り込みながらも遅々として進まないテーマです。
今のシンガポールは、アジアの medical, financial,education, traffic hub centerとして変貌を遂げながら、人口は650万人に増えてます。
ここに共通しているコンセプトはクロスボーダーアプローチであり国という概念を超えています。
ほんの少し前まで発展途上であったシンガポールは一人当たりGDPでは日本よりはるかに高い国として発展しています。その推進力となっていたのが人材教育と防衛力の強化です。
これにGDPの40パーセント近くを充当していたのであります。今の日本でこれに相当するものは社会福祉医療費です。これからもいかにシンガポールで教育に力を入れているか、容易に伺えます。
かつての日本は、内需拡大プラス技術革新力及び均質的な教育に立脚した共有化された価値観に基づく職業倫理観が大きな力となっていました。これはこれで素晴らしいもので、世界で誇れるものです。
しかし、人口減少・老齢化社会においては、かつてのビジネスモデルはもはや通用しないのは自明の理です。そこではスピーディーな構造的改革が求められるわけですが、その改革の本丸は教育だと思います。
その際よく言われるのは大学改革ですが、確かに制度改革も大事です。
が、より重要なことは、これから日本の中核となる若い人たち、すなわち皆様の意識改革だと思います。真の教育改革は教える側よりは学ぶ側にあるように思います。
教育とは教わることを育てると書きます。もちろんこのことは大事。しかしさらに大事なことは、自ら修める自修能力の向上が一層重要になるといます。すなわち、創造力(creativity)、革新カ(innovation)、論理カ(logical thinking)、指導カ (leadership)等々です。
教育者は知識の伝達ではなく、学ぶプロセスのファシリテーターとしてその力を発揮されることが期待されます。
教わることは受動的すなわちreceptive、一方自ら学ぶ能力の向上は能動的すなわちproactiveな行動です。
今実業界にあって求められる人材はまさに proactiveな心を持った人材です。
今日の超情報化社会は、かつての国境を壊し、時間軸を壊し、文化価値観さえも変えてゆきます。また、そのスピードは想像以上に早く、世界どこにいても起こりえるものです。
かつてはチームカ、問題解決能力が求められてまいりましたが、今の世の中では変化対応能力が強く求められています。
そこでは正解は選ぶものではなく、正解を自らが作り上げてゆくコンピタンスが期待されます。
なぜならば、常に変化する社会にあって絶対的な正解はないからです。
そういう社会であるからこそ、自分自身の軸として行動思考の原理原則を持つことがより一層大切になってきます。繰り返しになりますが、原理原則は思考の枠ではなく、発展の基礎になるものです。
皆様が活躍する場所は、スポーツの世界でも実業界の世界でも医療の世界でも、これからは超大陸(パンゲヤ)の世界観で見てゆくことが普通になりつつあります。
昨年よりアメリカで活躍している日本人二刀流メージャーリーガーがいます。
私は彼が大好きです。それは彼がホームランを打ったり、勝利投手になるからではありません。
彼のインタビューを聞いていつも感じることは、彼の行動には原理原則があり、まさにパンゲヤの世界観で価値観を持っているといつも感心させられるのです。
皆様の中からこのようなリーダーの資質を持ったグローバル人材が沢山出てくることを夢見ながら、益々のご発展と活躍を祈念し、孔子の教えの '後生畏るべし 'の言葉をもって私からのお祝いの言葉といたします。

ご清聴ありがとうございました。

平成31年4月5日
千葉大学経営協議会委員
香藤 繁常