千葉大学大学院を修了される皆さんへ(学長メッセージ)

2020年03月25日

大学からのお知らせ

修了生の皆さん、これまで千葉大学で研鑽を積んで来られ、素晴らしい研究成果を収めて学位を取得されたことに対して、教職員を代表してお祝いを申し上げます。

始めに、皆さんが楽しみにしていた大学院の修了式・学位記授与式の開催を中止したことを深くお詫びいたします。新型コロナウイルスの感染が日本はもとより世界中に拡大している情勢を鑑みて、修了生の皆さんやご出席いただく保護者等の皆様の健康を最優先させました。大学院修了式・学位記授与式が、皆さんの人生の大切な節目の式典であることを思うと断腸の思いではありますが、ご理解いただきたくお願い申し上げます。

皆さんの大学院での研究活動では、新たな発見の喜びや驚きが多々あったことと思います。論文に結びつくデータが得られた時の喜びは、研究に携わった本人にしか味わえないかけがえのないものであり、これからも強く記憶に残ることでしょう。また、新たな研究成果を求めて苦悶の日々を過ごされた方も多いのではないでしょうか。楽しいと思って始めた研究も、結果を出すまでにはいろいろなプロセスがあったことを思い出してください。その過程の中で皆さんの価値観や人間性が形成されていきました。この大学院における研究活動の証として皆さんが得るものは、学位記という1枚の証書でしかありません。しかし、その過程から得られた知識や経験そして研究活動で磨かれた知性は、皆さんの血となり肉となって皆さんのこれからの人生において何かを創り上げるときの大きな原動力になることでしょう。

皆さんは今、人生の新たなスタートラインに立っています。そして将来は社会をリードする立場に就くようになります。そのために皆さんは、これからもリーダーとしての素養を磨き続けていかなければなりません。皆さんが活躍する世界は、グローバル化の著しい進展とともに様々な分野で国際競争が激化しています。一方で民族紛争に起因する難民問題ばかりでなく、地球規模での環境汚染や新型コロナウイルスなどの新興感染症への対応などが世界的に喫緊の課題となっています。また、人工知能・AIの進化が加速しており、近い将来AIに取って代わられる学問分野や職業なども話題になっています。

このような時代に求められるリーダーは、深い知性とその知性に裏打ちされた豊かな教養を身に付けていることが求められます。皆さんは大学院での研究活動を通して、物事の本質を知り創造的に考える能力である「知性」を磨いてきました。この知性を磨くという行為は、大学院を修了しても終わりではありません。新しい環境の中でも、大学院での研究活動で培った知恵と経験を駆使して課題の解決に向けて努力することにより、知性を磨き続けてください。同時に、そのような努力で培ってきた知性を基に、幅広い教養を身に付けるように努めてください。

さらにリーダーには、広い視野にたってリーダーシップを発揮できる豊かな人間力を身に付けていることが求められます。人間力は「一人の人間として力強く生きていくための総合的な力」と定義されますが、皆さんが社会でプロフェショナルとして仕事をする過程で皆さん自身の努力により育成されてきます。ですから将来リーダーとして活躍する為に、まずは日常の仕事を通して如何にして自己の人間力を高めることが出来るかを考えて活動してみてください。しかし、実際にどのような努力をしたら良いのか分かりにくいと思いますので、私が自身の人間力の育成に向けてこれまで努力してきたことをお伝えします。

それは「ひたすら」一つの道を追求することです。このことを大学院時代の恩師から「一つに秀でることは、全てに通じる」と教わりました。「ひたすら」一つの道を追求することが人間力育成の近道なのです。これまでの大学院での研究活動から進むべき道を見つけた方は、その道を「ひたすら」突き進んでください。まだ進むべき道が見つかっていなかったら、社会で仕事をする過程で独自の進むべき道を模索してください。そして孔子が論語の中で「40にして迷わず」と述べているように、40歳前後までには自分の進むべき道を決めて、その道を「ひたすら」進んでください。孔子が「50にして天命を知る」と述べているように、50歳前後には広い視野にたってリーダーシップを発揮できる豊かな人間力が備わっていることでしょう。

最後に、私が座右の銘としている言葉を贈ります。仏教の根本思想を成す教えである「諸行無常」です。世の中の全ての事象は常に変化しており、永久不変なものはないという教えであり、これまでの人生において辛く苦しい時にいつも心の拠り所としてきた言葉です。皆さんが社会でリーダーシップを発揮していく時には、決して順風満帆の時ばかりではありません。諸行は無常であり、決して同じ状況は続かないのです。辛く困難な状況に置かれたら「諸行無常」を思い出し、次には必ず素晴らしい時が来ると信じて、その困難に耐えて頑張ってください。

これまで指導してくれた教職員や共に学んだ先輩・後輩など多くの方々が、これからの皆さんの活躍を応援していることを忘れないでほしいと思います。そして千葉大学は、これからも皆さんの将来を見守り続けます。皆さんには千葉大学の同窓生として、千葉大学とともに後に続く後輩たちを応援していただきますようお願い致します。

千葉大学での学びによって高めた専門性と教養に自信と誇りを持って、深い知性に基づく豊かな人間力を発揮されて、未来の明るい社会をつくり出してゆくリーダーとして、多方面で活躍されることを心より祈念しています。大学院修了と学位の取得、誠におめでとうございます。

令和2年3月吉日
千葉大学長 徳久剛史