バンコマイシン耐性腸球菌(VRE)感染症の治療に道-ナトリウムポンプ阻害剤の発見とその阻害機構を解明-
2024年11月25日
研究・産学連携
千葉大学大学院理学研究院(膜タンパク質研究センター兼任)の村田武士教授、鈴木花野特任助教、真菌医学研究センターの後藤義幸准教授らは、高エネルギー加速器研究機構(KEK)物質構造科学研究所、自然科学研究機構分子科学研究所、京都大学大学院医学研究科、群馬大学大学院医学系研究科、横浜市立大学大学院生命医科学研究科との共同研究により、バンコマイシンを含む多くの抗生物質に耐性を持つバンコマイシン耐性腸球菌(Vancomycin-resistant Enterococcus faecium :VRE注1))感染症に対する新たな治療法の可能性を開きました。
研究チームは、VREのアルカリ環境での生育に必須となるナトリウムポンプ(Na+輸送性VoV1-ATPase)注2)の阻害剤「V-161」を同定しました。そして、V-161の投与によりマウス小腸でのVREの定着が抑制されることを発見しました。さらに、ナトリウムポンプとV-161の結合部位の詳細な立体構造を解明し、ナトリウム輸送の仕組みとV-161による阻害の仕組みを明らかにしました。
本研究成果は、VREばかりでなく、薬剤耐性菌による多くの感染症に対する効果的な抗菌薬の開発にも貢献することが期待されます。この研究は2024年11月21日に英国科学誌Nature Structural & Molecular Biologyでオンライン速報版として発表されました。
注1)バンコマイシン耐性腸球菌(VRE):院内感染の原因菌として知られている薬剤耐性菌の一種で、心内膜炎や敗血症などの日和見感染を引き起こし、深刻な問題になっている。
注2)ナトリウムポンプ(Na+輸送性VoV1-ATPase):一部の細菌の細胞膜に存在するタンパク質であり、ATP(アデノシン三リン酸)をエネルギー源として利用して細胞内のナトリウムイオン(Na+)を排出するナトリウムポンプとして機能する。これにより、細菌は正常な機能を維持し、特にアルカリ環境で増殖するために重要な役割を果たしている。