有機EL素子の中の分子の向きは"待ち時間"で制御できる
「一時停止」蒸着法で分子配向制御、有機ELの性能向上へ

2023年12月07日

研究・産学連携

 千葉大学大学院融合理工学府博士後期課程3年/日本学術振興会特別研究員の大原正裕大学院生、千葉大学先進科学センターの石井久夫教授、群馬大学大学院理工学府の田中有弥准教授らの研究チームは、有機分子を真空蒸着(高真空の環境で物質を加熱して気化させ、それを基板に薄膜として堆積させるプロセス)する際にあえて蒸着を一時停止して“待ち時間”を導入し、その時間に分子の配向が変化していく様子を調べることで、有機EL素子(OLED)の特性に直結する分子配向を任意に制御する新手法を開発しました。
 本研究では、新たな測定装置(回転型ケルビンプローブ装置)を開発し、従来は困難だった蒸着中のサンプルの表面電位をリアルタイムで測定し、配向変化の観測を実現することができました。また、この装置で代表的な有機EL材料であるAlq3分子を測定した結果、蒸着中や直後はある一定の配向度で分子が並ぶ一方、蒸着を一時停止すると100秒程度の時間をかけて配向が徐々にランダム化(=緩和)していくことも発見しました。さらに、蒸着条件を変えることで、分子の頭尾の向きを逆転できることも実証しました。
 分子の配向の角度を制御する技術は従来からありますが、分子の頭尾の向きまで含めて制御することは難しいとされてきました。今回の結果により、任意の方向に分子の頭尾をそろえることにより、有機EL素子の中に発生する電荷を制御することが可能となり、有機ELの一層の性能向上が期待されると共に、その他の有機半導体を用いた素子開発にも広く役立つことが期待されます。
 本研究成果は、2023年12月4日に、学術誌ACS Applied Materials & Interfacesで公開されました。

  • 研究概要。回転ケルビンプローブ装置で分子の配向がランダム化する様子をとらえた