ウェルナー症候群に多い動脈硬化の発症メカニズムが明らかに
~創薬開発への手がかりとなる動脈硬化研究の新たなプラットフォーム~
2024年06月11日
研究・産学連携
千葉大学大学院医学研究院イノベーション再生医学の髙山直也准教授、Sudip Kumar Paul特任研究員、江藤浩之教授(兼 京都大学iPS細胞研究所 教授)らの研究グループは、同大学の内分泌代謝・血液・老年内科学 横手幸太郎教授(現千葉大学長)らの研究グループと共同で、ヒトiPS細胞から誘導したマクロファージ注1)、血管内皮細胞注2)、血管平滑筋細胞注3)を用いて、試験管内で動脈硬化注4)を模倣するモデルを確立しました。
動脈硬化を早期に発症する早老症の一つであるウェルナー症候群(WS)注5)患者由来細胞と健常者由来細胞を比較したところ、WS患者由来マクロファージにおいて、炎症性マクロファージの特徴が強まることが動脈硬化の原因となる血管炎症を誘導することが明らかになりました。
本研究で、遺伝的背景を揃えたマクロファージや血管構成細胞との直接的な影響を観察する新たな研究プラットフォームを提供することにより、今後は動脈硬化に対する病態解明や創薬開発への応用が期待されます。
この研究成果は、2024年6月10日(英国夏時間)に国際学術誌Nature Communicationsにオンライン掲載されました。
注1)マクロファージ
体内の異物や細胞の老廃物を処理する免疫細胞の一種。血液や組織に存在し、炎症や感染に応じて活性化される。酸化脂質を取り込むことで活性化し、炎症性サイトカイン分泌などを介して動脈硬化への発症に関与している。
注2)血管内皮細胞
血管内腔を覆う細胞であり、血管壁と血液の間の隔壁を形成している。血管の健康状態を維持するとともに、動脈硬化発症時においても重要な役割を果たす。
注3) 血管平滑筋細胞
血管壁に存在する筋肉細胞の一種。外部からの刺激に応じて収縮・緩和することで、血管の内径や血液流量を制御する。これによって、体内の各組織や臓器に適切な量の酸素や栄養素が供給される。動脈硬化が進行する際に、炎症性サイトカインなどの影響で、成熟した平滑筋が脱分化し、増殖を開始する(形質転換)。これが動脈硬化プラーク形成に重要な役割を果たす。
注4) 動脈硬化
血管壁にコレステロールやその他の脂質が蓄積し、炎症反応や石灰化が進行する疾患。進行すると、心筋梗塞や脳梗塞などの致死的な疾患につながる。
注5)ウェルナー症候群(WS)
常染色体劣性遺伝疾患の一つであり、主に早期老化や様々な老化関連疾患が特徴的である。WRN遺伝子の変異によって引き起こされ細胞の老化が加速される。思春期を過ぎた頃から加速した老化現象を示し、通常は40代から50代には老化関連疾患に罹患する。