非熱的な超高速スピンスイッチング動作の発見―光による物性制御の新原理―
2024年10月28日
研究・産学連携
京都大学化学研究所の廣理英基 准教授、章振亜 博士研究員、金光義彦 特任教授、丸山慶 修士課程学生(研究当時)、千葉大学大学院理学研究院の佐藤正寬 教授、金賀穂 博士課程学生、大阪大学レーザー科学研究所の中嶋誠 准教授、東京大学物性研究所の栗原貴之 助教、東海大学工学部の立崎武弘 講師らの研究グループは、物質内部でテラヘルツ(THz)波注1)の磁場強度を増強させ、スピンの方向を約1兆分の1秒の時間内に変化させる方法を発見しました。近年、THz周波数帯にスピン歳差運動を持つ反強磁性体は、強磁性体よりも高速なスピンデバイスへの応用が期待されており、そのスピンダイナミクスは精力的に研究されています。しかし、従来の可視光やTHz波によるスピンの励起手法では長寿命の加熱効果が生じるため、高速なスピン制御が困難でした。本研究では、反強磁性体注2)Sm0.7Er0.3FeO3表面に作製した金属メタマテリアル注3)構造を利用して1テスラを超えるTHz磁場を印加すると、瞬間的に反強磁性体のスピンの方向を変化させられることを発見しました。そして、THz磁場によりスピンが受ける磁気的エネルギー注4)の時間周期的な変調効果が、高速スピンスイッチングの駆動力であることを明らかにしました。今回の成果は、光による物性制御に関する理解を深化させ、高速な磁気デバイスや光デバイス開発に向けた基盤技術となることが期待されます。
研究成果は、2024年10月25日に国際学術誌「Nature Materials」にオンライン掲載されました。
※1 テラヘルツ(THz)波:テラヘルツ波とは光波と電波の中間の周波数帯に位置する電磁波のことである。1テラヘルツは光子のエネルギーにすると約4ミリエレクトロンボルト(meV)、周期にすると1ピコ秒に相当する。
※2 反強磁性体:隣り合うスピン(原子磁気モーメント)が反平行に規則正しく配列し、全体の磁化が0、あるいは小さい磁性体のこと。
※3 メタマテリアル:電磁波(光)の波長よりも小さなミクロ構造が刻まれた物質群。ミクロ構造の形状に依存して、通常の物質とは異なる電磁波応答を発現させられる。
※4 磁気的エネルギー:磁性体中のスピンが感じるエネルギーでありスピンの運動を決定する。今回の試料では反強磁性交換相互作用、ジャロシンスキー・守谷相互作用、磁気異方性相互作用からなる。