「触媒医療」の新時代へ―がん治療の可能性を広げる新技術を開発―

2025年01月27日

研究・産学連携

概要
 東京大学 大学院薬学系研究科 山梨 祐輝 助教、川島 茂裕 准教授、金井 求 教授らの研究グループは、同大学 定量生命科学研究所 胡桃坂 仁志 教授、同大学 医科学研究所 岩間 厚志教授、千葉大学 大学院医学研究院 金田 篤志 教授の研究グループとの共同研究のもと、がん治療の可能性を広げる新技術の開発に成功しました。
 エピジェネティクスは、DNA配列を変えることなく遺伝子発現を調節する仕組みであり、その異常はがんをはじめとする多くの疾患の原因とされています。このため、DNA やヒストンの化学修飾をターゲットとしたエピジェネティック薬剤は、がん細胞の異常な遺伝子発現を修正する治療法として注目を集めています。これまでに開発されたエピジェネティック薬剤の多くは、DNA やヒストンへの化学修飾を導入する酵素に対する阻害剤でした。
 本研究では、従来の薬剤とは全く異なる新しいメカニズムでがん細胞のエピジェネティクスに変化を与え、抗がん効果を発揮する化合物を開発しました。この化合物は「触媒」です。通常、生体内では酵素(巨大なタンパク質)がヒストンの化学修飾を促進しますが、今回開発した触媒は人工的に合成可能な小さな分子でありながら、酵素のようにヒストンに化学修飾を導入することが可能です。
 新規触媒「BAHA-LANA-PEG-CPP44」は、白血病細胞選択的に侵入し、ヒストンタンパク質の特定の部位をアセチル化することで転写を変化させます。その結果、白血病細胞の増殖が効果的に抑制されることを確認しました。
 本研究の成果は、酵素の働きを人工的に模倣した触媒を活用することで、体内の化学反応を制御し疾患を治療する新しい創薬コンセプト「触媒医療」の実現に向けた大きな一歩を示しています。エピジェネティクスをターゲットとした治療法の可能性をさらに広げ、がん治療をはじめとする医療分野での応用が期待されます。

  • がん細胞内のヒストンタンパク質に化学修飾を導入し、がん細胞の増殖を抑制する触媒