従来の定説を覆す増殖装置を持つRNAウイルスの発見

2020年12月18日

研究・産学連携

筑波大学生命環境系 萩原 大祐 准教授、浦山 俊一 助教、千葉大学真菌医学研究センター 矢口 貴志 准教授らの研究チームは、ウイルスゲノムの多様性を明らかにする目的で、100株以上の糸状菌を対象にRNAウイルスの探索を行いました。その結果、RdRpが2つの遺伝子に分割されながらも増殖するという、従来の定説とは異なる増殖メカニズムを持つ、新種のRNAウイルスを発見しました。このことは、RNAウイルスのゲノムが、実は極めて高い可塑性を有していることを示唆しています。

ウイルスは、宿主細胞の中で遺伝子を複製することで増殖します。RNAウイルス(コロナウイルスやインフルエンザウイルスなどを含むウイルスの一群)は、ゲノムがRNAで構成されているウイルスの総称で、RNA依存性RNA合成酵素(RdRp)によりゲノムを複製します。RdRpは、すべてのRNAウイルスが有しており、単一の遺伝子によって作られると考えられています。また、その構造や設計図となる遺伝子配列は、これまでに知られている数千種のRNAウイルスにおいて、良く保存されています。
RNAウイルスの中には、RdRpの遺伝子しか持たないものもあり、RdRpはRNAウイルスの本体とも言える酵素です。RdRpがすべてのRNAウイルスに唯一共通する酵素であることから、その分類や多様性を調査することで、地球上のRNAウイルス分布が明らかにされてきました。しかしながら、今回、分割された形のRdRpを持つRNAウイルスの存在が確認されたことで、RNAウイルスのRdRpは単一の遺伝子によって作られるという前提が崩れ、今までになかった視点でのウイルス探索が可能になります。これにより、今後、さらなる未知のRNAウイルスが発見され、ウイルスの進化や多様性への理解が深まると期待されます。
本研究成果は、Virus Evolutionに12月16日付で掲載されました。

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    ウイルス増殖装置に関するこれまでの理解と本研究の成果。これまでに知られている数千のRNAウイルスの増殖装置(RdRp)は全て単一(不可分)でであると考えられていたが、本研究により、RdRpが分割されているRNAウイルスの存在が明らかになった。