研究成果・活動報告
Research & Activities

第2回 移民難民スタディーズ研究会 報告

第2回 移民難民スタディーズ研究会 報告

外国につながる子どもの現状と課題 and千葉

2020年8月31日(月) 10:00~12:00 参加者23名

「日本語教育推進法」(2019)が制定され、日本語教育の機会の拡充に関する国、地方公共団体及び事業主の責務を明確化し、多様な文化を尊重した活力ある共生社会の実現を目指すことが示された。さらに文部科学省から「外国人の子供の就学促進及び就学状況の把握等に関する指針」(2020)が出され、教育の現場への自治体としての公的な対応が迫られることになった。すでに多様化の状況にある千葉県内においても外国人児童生徒らの日本語教育や就学状況に関する全体的な調査が求められるとともに、現場の教職員や保護者の観点、ノンフォーマルな教育支援、そして友人関係といった社会的側面についての検討が必要である。

司会:小川玲子(千葉大学法政経学部)

報告

1.「外国人児童生徒を受け入れと学校教育の課題」土田雄一(千葉大学教育学部)

土田氏は、日本語指導が必要な児童生徒の現状と千葉県における外国人児童生徒の取り組みと課題について報告をした。千葉県においては過去10年間に外国籍児童は1.3倍に増加しており、多様化、集住化・散在化している。受け入れの選択肢の1つに夜間中学があり、ここ10年で日本人生徒が減少し、外国人生徒が増加している。2019年には松戸市立第1中学校未来分校が開校した。千葉県の学校の受け入れ体制には差があり、行政による支援や学校の組織体制及び教職員の意識の差が大きく、「郷に入れば郷に従え」という意識の教員もいる。多国籍の子どもたちが通う一部の学校においては、適切な受け入れ体制があれば、子どもたちの「相互理解力」「寛容性」「異文化理解力」「コミュニケーション力」が育っており、教職員の意識も高く、トラブルに対する対応力もあることが観察されている(土田、2019)。

一方、外国にルーツを持つ子供たちの課題については、学習と進路があげられる。高校中退者は日本人の7倍である。また、メンタルサポート(子供・保護者)や危機管理体制を入学時に整えることが重要である。多国籍化する学校の課題解決のために最も重要なのは教員研修である。H19年に特別支援教育が導入された時には発達障害に対する理解がなかったが、同様に外国人児童生徒の理解とサポートが必要である。また、専門性の高い教員も不足しているため教員の育成が重要である。

土田雄一、「多国籍化する学校 - 外国にルーツをもつ子どもたちの支援を考える -」『子ども支援研究』創刊号、2019、28-34頁

質疑応答では、教員研修は全員が受けているのか、また教員が多忙な中で研修を受けてもらうためにはどうすれば良いのかという質問に対して、土田氏からは、現状では外国人児童生徒の理解と対応に関する研修は全教員が受ける体制にはなっていない。また、優先順位から行くと散在地域では低い。現在、特別支援学級は教員養成において必修科目になっているので、それと同様に教員養成段階で入れていく必要があるのではないか。初任者研修や5年研修のような悉皆研修にその内容を組み入れることが必要である、との回答があった。

2.「千葉県内の地域日本語支援活動における子ども支援の展開」相良好美(千葉大学特任研究員)

相良氏は地域のノンフォーマルな学びの場である日本語教室や学習支援教室がどのように外国につながる子どもたちを支えてきたかについて報告した。

千葉県内では、市民ボランティアを主体とした地域日本語支援活動が1980年代から徐々に見られるようになり、1993年~2019年の26年間で日本語教室数は3.5倍にまで増加した。成人を対象とした日本語教支援活動の広まりの中で、子どもを対象とした支援活動が本格的に取り組まれるようになったのは2000年代に入ってからである。外国人労働者とその家族の滞在の長期化に伴い、子どもたちの教育課題が徐々に露呈するようになり、房総日本語ボランティアネットワーク(現・房総多文化ネットワーク)が行った県内の日本語教室調査でも、成人対象の日本語教室で学習している子どもたちの実態や公的支援を望むボランティアの声が寄せられるようになっていく。2000年代に入り、市民ボランティアによる子どもの日本語教室が相次いで開設され、一方では地域で活動する日本語ボランティアが学校に派遣されるようになるなど、地域と学校の双方で日本語支援が行われるようなっていった。2010年代になると、日本語学習の枠を超え、教科学習支援、高校進学支援を行う教室も見られるようになっていく。特に、千葉県の県立高校では、2002年から外国人の特別入学者選抜が実施されるようになり、房総ネットが中心となり高校進学ガイダンス(千葉では「日本語を母語としない親と子どものための進路ガイダンス」)を行うようになるなど、高校進学に関する情報ニーズ、支援ニーズの高まりにもボランティアがいち早く対応してきた。近年では、外国にルーツを持つ子供たちの高校進学支援に特化したNPO法人多文化フリースクールちばが開設されるなど、高校進学支援に特化した支援活動も行われるようになっている。

以上のように、地域における外国につながる子どもたちへの教育的支援は、日本語学習支援を出発点としながら、教科学習支援、高校進学支援へと拡張していった。外国につながる子どもたちの基礎教育と進路選択は、子どもの日本語教室やフリースクールをはじめとしたノンフォーマル教育に支えられてきた部分が大きい。しかしながら、地域における子ども支援はボランティアの「がんばり」に頼るところが大きく、活動の持続性という課題が常につきまとう。「日本語教育の推進に関する法律」(令和元年6月28日)の施行を契機に、外国につながる子どもの支援においても、行政・学校・地域の連携による中長期的な学習支援体制の構築が求められる。

質疑応答では、長年、外国人支援を担ってきた教員から、フォーマル教育とノンフォーマル教育との連携は必ずしも良くなく、ノンフォーマル教育の持続性が懸念されるとの指摘があった。また、高校における学習支援や進路指導の現状についての質問に対し、相良氏からは県内の高校で外国にルーツを持つ生徒のための進路指導を行っている高校は僅かであり、特に定時制高校においては少ない。県教委では母語相談員を派遣しているが、千葉県内の外国籍児童は多言語化が進んでおり、母語が出来る相談員が見つからないこともある。また、相談員が派遣されても学校側との連携が効果的になされているかどうかは不明である。日本語指導については、必要性があっても派遣されないケースもある。また、日本語教育はいくつかの高校では単位化されているが、まだ少ない。定時制高校は4年間通学するのが難しく、退学する生徒も多いとの回答があった。また、外国人生徒が多数在籍している県立高校の日本語指導員からは、在留資格に関する研修や日本語学習、日本語能力試験や英検の単位化などが進んでおり、教員の意識改革が行われているとのコメントがあった。

3.「移動する子どもの居場所」小林聡子(千葉大学国際教養学部)

小林氏からは、トランスナショナルな状況下で移動する子どものアイデンティティや居場所形成についての報告が行われた。調査は、アメリカで高校に通う日本人駐在員の子弟を対象として、アイデンティティ、居場所、他者化に関するマルチサイテッド・エスノグラフィとして行われた。アメリカの学校でマイノリティである日本人はラベリングをされるが、そのラベルの解釈は日系人とニューカマー日本人では異なる。また、英語のレベルや学年、通っている塾によってグループが出来ており、生徒同士の差異化と校内という空間における位置取りが行われている。日本人の生徒の中には学校と塾にしか行っておらず、行動範囲がとても狭い生徒もいて、日本で暮らす外国につながる生徒との共通点があるのではないかと思われる。アメリカでは人種地図が学校区と重なっており、それが学校評価とも重なることから、人種が地理的に構造化されている。調査からは、日本人というアイデンティティは他者との相互行為を通じて形成される流動的なものであるにもかかわらず、学校における他者化を通じてナショナル・アイデンティティの認識が強化されていることが確認された。また、アイデンティティや居場所は相互作用を通じた個々人の居場所づくりのみならず、日米の教育制度や物理的・地理的構造によっても影響を受けており、移動する子どもたちはトランスナショナルな社会関係資本を活かして自らの進路を見出していこうとしている。移動する子どもにとって「居場所」とはそれだけで成立するものではない。個々の子ども達へのアプローチの他、送り出し・受け入れ国の教育制度やカリキュラム、 教育的・社会的・物理的な空間設計、そしてより包括的かつ意図的に協働性を育む仕掛けについて、さらに検討する必要がある。例えば、今年、カリフォルニア州立大学では学部卒業にあたりエスニックスタディーズが必修単位となったように、多様な背景を持つ子供に対応するための研修は教員だけでなく、より幅広い層に対して行われるべきであろう。

また、教育班による今後の研究計画としては、今年度は①進路ガイダンス、②義務教育課程教員向けの校内研修会、③教職大学院の授業、④教育現場への訪問やインタビューを計画している。

全体討論

支援は必要であるが、資源の制約がある中で何らかの基準が必要ではないかという質問に対して、それぞれの自助グループが出来るのが理想的であり、大手企業などが支援をしている場合もあることや、マイノリティは常に弱者であるわけではなく多面的であること、さらに教育という場面においては教える側と教えられる側との間に非対称性が生じるが、子どもの場合、移動が自分の意志でない場合が多いので、進路の選択肢を提示するのは大人の役割ではないか、という点が指摘された。また、欧米の事例では、移民集団の中にはホスト国において経済力や政治力を持つ集団もあり、権力性を反映しているので、そこまで広げてみていく必要があるのではないかとの指摘があった。

教育は子どもの将来の収入のみならず、健康や犯罪などの指標とも関連していることから、長期的な視点で教育へのアクセスを保障することが、ひとりひとりにとって実現可能な生き方の幅を広げることにつながるであろう。

文責:小川玲子

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