外国にルーツを持つ人たちと生きる
2015年のヨーロッパでのシリア難民危機やイギリスのEU離脱、ロヒンギャ難民の周辺国への大量流出、メキシコとの国境に壁を作ることを訴えたトランプ政権の誕生などに見られるように、人の移動は現代の国際社会の在り方に大きな影響を及ぼしています。私たちの生活も野菜や加工品、コンビニのお弁当、ホテルのベッドメーキング、自動車製造や建設業、IT技術者や大学教員にいたるまで、多くの外国出身者によって支えられています。コロナ禍により一時中断したものの、日本社会にはすでに多様な背景を持つ人々が暮らしています。
本研究は、グローバルな人の移動とローカルな実践を結び、移動の背景やネットワーク、政策や制度、外国にルーツを持つ人々の教育や雇用について明らかにし、千葉をフィールドとして多文化が共生するための課題を探ることを目的としています。
1.グローバルとローカルを結ぶ視座
国際移動の発生から定着にいたるまでの包括的な移住プロセスを学際的に明らかにします。人が移動するときにはその身体のみならず、歴史や文化や宗教や価値観なども移動します。移動の歴史的背景である植民地支配や国民国家形成、貧困や紛争やグローバリゼーションによる社会変容と移動のプロセスについて理解することは、現代の国際社会を理解することにつながります。また、第2次世界大戦後、さまざまな国際規範が成立してきましたが、その中には外国にルーツを持つ人々に関するものも数多くあります。国連女性差別撤廃条約や国連子ども権利条約、持続可能な開発目標 (SDGs) 、国際労働機関 (ILO) 条約、グローバル・コンパクト、ビジネスと人権に関する指導原則等、日本政府がすでにコミットしているものも数多くあります。これらの国際規範と千葉をフィールドとした実践を結びつけることで、安全で秩序だった人の移動のための方策について様々なステークホルダーと議論します。
2.教育と雇用を結ぶ視座
教育と雇用に焦点を当てて、実態調査と分析を行います。これまで日本では外国につながる子どもたちを教育政策の中に明確に位置付けて来ませんでした。そのことで、若者世代の低学歴や不就学の問題が顕著になっています。教育機会の欠如は生涯にわたって影響を及ぼし、社会的にも多大な損失を招きます。外国につながる子どもたちが日本の学校教育を受ける上での障壁を取り払うことが出来れば、次世代の社会の担い手となり、能力を発揮することができます。
また、外国人労働者は日本人よりも低賃金で不安定な雇用下に置かれているケースが多く見られます。しかし、保護者の雇用が安定しなければ、子どもたちは安心して学校に通うことが出来ず、次世代の産業の担い手はいなくなります。人口減少が加速化する日本において、外国出身者の教育と雇用をつなぎ、正の循環を生み出していくことは喫緊の課題であり、学術的にも政策的にも意義があります。
日本人もまた、階級やジェンダーや出身地域や障がいの有無によって分断された多様な背景を持つ人々の集まりです。多様性を認める社会は、外国出身者だけでなく、「多様な日本人」にとっても暮らしやすい社会だと思います。国内外の大学や研究機関と連携しつつ、理論と実践を橋梁する学際的な研究を進め、外国にルーツを持つ人たちとの共生の在り方について具体的な調査と提言を行います。
3.3年間の達成目標
教育と雇用のwin-win関係確立のための実態調査
- 房総ネットワークを軸にネットワーク形成し、各市町村、県が個別に持つ情報、データ、ノウハウなどの収集、意見交換のための研究会を積み重ね、広い情報共有の場を確立する。共有のための報告書作成。
- 外国人労働者受け入れ企業、監理団体の実態調査、および行政機関への聞き取り調査を実施。共有のための報告書作成。
移民共生モデル確立にむけた提言
- 海外事例の調査を実施、日本の移民社会のグローバル比較を行う。
- 国際人権基準から見た日本の移民・難民に対する制度面での問題を洗い出し、制度上の改善策を検討。
移動の原因から移動後社会までを対象とする包括的研究
- 移民、難民化の背景にある紛争、貧困、社会的差別などグローバルな政治経済的問題の分析から始まり、移動後社会での共生実践まで、包括的な視点での移民・難民研究論文の発表
- 上記研究発表のための国際会議開催、国内外学会での発表