第5回 移民難民スタディーズ研究会 案内
「ケア労働」を担うのは誰か?
1990年代頃から移民における女性の占める割合が増加し、<移住労働の女性化>が指摘されてきた。移住女性の多くは自分の家族を出身国に残し、移住先で家事や育児や介護などの再生産労働に従事している。また、制度化されたケア労働以外でも移住女性たちは興行ビザによるエンターティナーや国際結婚、家族帯同を許された外国人労働者の扶養者として広義のケアを担っている。特に、日本人の配偶者や家族帯同で来日した女性や子どもたちは「家族」以外の居場所を法的に保障されていないため、なかには「家族」がつくりだす再生産労働から逃げる、離脱するという選択肢を事実上持たない者もいる。ケア労働を担う移住者の視点から、グローバル格差と構造化されたジェンダー規範を基盤として成り立つ日本の外国人労働者政策とケア政策が産み出す影響を検討する。
日時:11月27日(金)10:00~12:00
オンラインZoom 会議
■「移住ケア労働者の受け入れから10年」
小川玲子(千葉大学社会科学研究院)
概要
日本の介護現場に外国出身者が就労するようになって10年以上が経過した。厚労省は2025年には38万人の介護職が不足すると推計しており、農業や建設と並んで介護現場の人手不足は深刻である。介護分野の人の移動は、当初は政府間協定の下で「特例的」に開始されたが、2017年以降、民間による斡旋へと拡大している。本報告では移住ケア労働者の国際移動の議論を踏まえ、日本の介護現場で移住労働者が就労する契機となった経済連携協定の下での受け入れと、その後の規制緩和が現場に何をもたらすのかについて論じる。
■「再生産労働領域における移住者への支配と暴力」
佐々木綾子(千葉大学大学院国際学術研究院)
報告
1970年代より、中国やフィリピン、タイなどアジアの国々からきた「花嫁」たちは、「日本人の配偶者等」という在留資格のもとで「後継ぎ」を産み、「国民」の再生産と育児、生産労働に従事する夫や義父母のケアを無償で担ってきた。1980年代になると、とりわけ男性労働者たちの「性的ケア」「心的ケア」を担う性風俗産業従事者として、フィリピン、タイ、コロンビアなどから在留資格「興行」のもと、(騙されて)来日する外国籍女性が増加した。なかには客との恋愛によって「日本人の配偶者」となり、「国民」のためのケア労働を担う者も多く存在している。2000年代になると管理強制売春は「人身取引」として、家庭内での支配と暴力は「DV被害」として概念化され、福祉事業である「婦人保護事業」としての対応がなされるに至った。しかし、その範囲は「被害者」の申告に基づいた性的搾取および配偶者からの暴力に限定されており、在留資格によっては「被害者」となることは「帰国」を意味することになる。本報告では、日本に滞在したまま支配や暴力から「逃げる」という選択肢を持ちづらい、不可視化されやすい再生産労働領域における移住者に焦点をあて、そこで認められる「被害」への日本政府の対応、市民社会の対応の変遷について論じる。